第5回「人物画の魅力」 中尾廣太郎 氏
「人物画の魅力」 画家 中尾廣太郎 氏(東光会会員)
2011年の最終回を飾る第5回「サルーテ文化講座」は、11月18日夕刻、洋画家の中尾廣太郎さんを迎えて開かれました。
「無名でも、誠実に生きる人にひかれる」という中尾さんは、まず自分史から始め、人物画の魅力、交流してきた人との縁を語り、講座は終始あたたかな人間味あふれるものでした。
少年時代に病弱だった中尾さんは、「いつも夜遅くまで働いていた、両親の2人の祖母が忘れられない」といいます。自身の「死への恐怖」と、健康で「働き者の祖母」―。この対照的な記憶が原点となり、初期の『農婦』『黄昏』などの作品を生みます。
広島の大学で学んだのは「70年安保闘争」の時代。学校の授業はなく、時間さえあれば風景画を描き、広島の県展に入選。帰郷して初出品した鳥取県展でも「県展賞」を獲得し、全国選抜展にも推薦されました。この受賞が励みとなり、画家を志します。
人物画については「西洋画に多い肖像画は、いまでいえばお見合い写真のようなもの」と語り、モザイク画からイタリア・ルネサンスの虜になり、特に光と影の対比が強烈なカラヴァッジオ、人間の暗部まで描き尽くしたゴヤが大好きと語りました。
人との縁では、尾崎悌之助・田賀久治・亀田正一さんなど、懐かしい人々との思い出が披瀝されました。作品的にも人間的にも「優れた人たちと、同時代の空気を吸う感激」を語る表情は、まさに生きる歓びそのものでした。
終演後の質問では、「会場に掲げられた大作3点のうち、どの作品が好きかアンケートをとってください」との思いがけない要望も出て、会場がどっと沸く場面も。
最後に、5回とも参加された方へ「サルーテ食事券」をプレゼントし、「来年、またお会いしましょう」と呼びかけ、今年のサルーテ文化講座は盛況のうちに幕を閉じました。
■中尾廣太郎氏のプロフィール
◎1949年(昭和24)鳥取市生まれ。幼時から画才に優れ、市内小学校選抜美術展に出品。中学2年で広島へ移り、高校時代に作品が校長室に飾られた。原爆資料館で衝撃を受ける。67年(昭和42)広島大学教育学部美術科に入学、美術研究所に通う。
◎東光会会員の林林男(しげお)教授に学び、研究科を修了。しかし学園は「ベトナム反戦」など学生運動の時代で、1年間授業はなくレポートで進級。学生集会のない日は、市内や尾道などで描き、広島県美術展・日本水彩画展・東光展などに入選する。
◎東京で税務を学び、鷹美研究所にも通う。その間『露天の親爺』で鳥取県展賞を受賞し、文部省主催の選抜展に出品。74年(昭和49)に帰鳥したが、激務で満足に絵筆が執れず、96年(平成8)の東光展安田火災美術財団奨励賞の受賞で活路を開く。
◎70年代は『親爺』『漁港』、80年代は『道化師』や海外取材の作品、90年代は『黄昏』連作、そして現在の『仄日』など。デフォルメされた、悲哀漂う特異な人物像が魅力だ。川上奨励賞受賞。申師任堂美術大賞2004国際招待作家出品。東光会会員。(角秋)
過去の文化講座
平成27年度
- 第21回「ふるさとを歌う」 西岡恵子 氏
- 第22回「15歳からの陶芸」 河本賢治 氏
- 第23回「演劇 –映像と見せ物の時代の中で–」中島諒人 氏
- 第24回「抽象と想い」 藤原晴彦 氏
- 第25回「自然によりそって」 森田しのぶ 氏
平成26年度
平成25年度
- 第11回「ふるさとの環境運動」土井淑平 氏
- 第12回「人形に思いをこめて」安倍朱美 氏
- 第13回「『源氏物語』の魅力」中永廣樹 氏
- 第14回「自然はおもしろい」清末忠人 氏
- 第15回「童心を描く」 佐藤真菜 氏