文化講座

第2回「山陰の光景」 岸本 章 氏

2011-05-20

「描く歓びと苦労を率直に」 取材の逸話も披露 [日展会友]岸本 章 氏

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5月20日午後6時30分からサルーテ・イベントホールで第2回『楽しく真剣!「サルーテ文化講座」』が開催されました。
約1時間の講演と司会者・参加者からの質問の応答が20分程度ありました。参加者は70余人講師の人柄70余人、講師の人柄が率直に溢れ出た楽しいひと時となりました。
また、5月17日~22日の間、サルーテの古民家にて岸本 章氏の作品展を開催、好評のうちに終了しました。

「東京から帰郷し、山陰のよさに気付き描いた」 ―日本画家・岸本章さんの郷土再発見は、サルーテ文化講座に参加した70余人に、深い感動を与えました。

岸本さんは1951年、鳥取市湯所生まれ。飛行機エンジニアを目指して上京しますが、受験に失敗して目的を失った頃、友人に誘われて日本画の虜になりました。 81年から川崎春彦(現日本芸術院会員)に師事して、日春展や日展に入選。しかし中央を離れると「都落ち」の心境になり、魚屋で飛行機に似た流線型の鮫を見て「これだ」と閃きます。

山陰の漁港行脚が始まりました。島根県大田の五十猛(いそたけ)では、親切な漁師の家に泊めてもらい漁船にも同乗します。獲れた鮫は危険防止のため、念仏を唱えて撲殺。帰港すれば家族総出で手伝い、解体作業の近くでは子どもが物怖じもせず見詰めています。漁師との出会いで、生きること、暮らしの厳しさを学び、代表作『鮫と少年』は生れました。

美しい風景もとどめようと、『泊漁港』や『餘部鉄橋』に通いました。構図の圧縮、色彩の組合せ、線描の用具に工夫が凝らされています。しかし、画家の生活は苦しく、ハローワークやバイトも考えたという話には、会場から感嘆と共感の雰囲気が漂いました。飾らない人柄に、ファンもきっと増えたことでしょう。

参加者の中には、講師への称賛とともに「芸術の楽しみ方を教えて頂いた」「このような企画は今までになく素晴らしい」「鳥取ガスがここまで本気で文化に向き合うとは」など、スタッフへの激励もありました。
次回は 7月15日、書家・柴山抱海さんが「書のこころ」と題して講演していただきます。


■岸本 章 氏のプロフィール
◎日展日本画部門会友。1951年(昭和26)鳥取市湯所生まれ。小学1年から絵を習い、上京して75年から「御茶ノ水美術学院」日本画コースに通う。81年から川崎春彦(現日展常任理事・日本芸術院会員)に師事し、画塾「阿佐ヶ谷研究所」の所属に。82年に帰鳥し、活動の場を故郷に移して現在に至る。

◎81年「日春展(日展日本画春季展)」に、82年「日展」にも初入選。以後入選を重ね、日春展奨励賞2回。川上奨励賞、鳥取市文化賞受賞。99年に菅楯彦大賞展大賞、2010年に日展特選受賞。

◎80年代は明朗爽快な色調で、元気な子どもたちが遊ぶ『ジャングルジム』『遊園地』などを描く。中央から地方へ帰りテーマに悩んだころ、流線型に進化した魚体に魅せられ、岸本章の代名詞にもなった逞しい『鮫と少年』連作を発表する。

◎90年代は大地と歴史を意識した、山陰風景の『岬から見た漁村』『隠岐島』や、但馬の『餘部鉄橋』を制作。2000年代に入ると、県立博物館で鯨やナウマン象を取材して、骨格の機能美を表す『海の記憶』を発表。テーマの「進化」は止まるところを知らない。(角秋)

 

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