文化講座

第1回「一隅について」 山本恵三 氏

2011-04-22

「ユーモアたっぷり美の真髄」 満場の聴衆喝采 [独立美術協会会員]山本恵三 氏

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「我を捨てた時、人の心を打つ作品ができる」―満員の聴衆は、講師に頷いた。サルーテ開館5年目を記念して、鳥取ガスグループが4月22日に開いた第1回文化講座は、画家の山本恵三さんを迎え約100人の市民が聞き入った。
狙いは「郷土文化の発展と、市民が芸術に親しむ」ことを願ったもので、「すばらしい企画」との讃辞も寄せられました。

国府町の国分寺に生まれた山本さんは、田中寒楼や中島菜刀ら文人墨客が集う環境で育ち「放浪に憧れたのが、絵を描くきっかけ」と幼時を回想。1963年に独立美術展に初入選したが、受賞には恵まれず、アトリエに脱いだ惨めなズボンにも愛着を抱き「寝る間も惜しんで」実在感に富む作品を描いた。

画家の方向を決定づけたのが、裸婦を題材にした代表作の『一隅』シリーズ。裸婦は赤・青・ピンク・白を変遷しながら、情熱・苦悩・倦怠・清浄感などを表し、社会との関わりも反映して受賞を重ね、ついに最高の「独立賞」を獲得し会員に推挙された。

山本さんは「人間一人ひとりの存在は小さいが、みんないるから役立つように、乳房ひとつを描き、鼻・口など部分が集まることで、全体を表す裸体になる」と語り、「体の各部分を見詰め、一隅を追求することが宇宙につながる」と持論を披瀝した。

画論は情熱的で、郷土風景から人間教育に及び、濃密な人生観と家族愛にあふれていた。特に人柄そのままの語り口は、飾り気のない親しみやすさで、炸裂するユーモアに会場はしばしば爆笑につつまれた。

次回は5月20日(金)、日本画家・岸本章さんが「山陰の光景」と題して講演します。


■山本恵三氏のプロフィール
◎独立美術協会会員。1937年(昭和12)国府町の国分寺生まれ。田中寒楼・八百谷冷泉・中島菜刀ら文人墨客が集うお寺の環境で育つ。59年、鳥取大学卒。東京学芸大学に内地留学。倉田三郎、麻生三郎に師事。73年、武蔵野美術大学大学院に入学。麻生三郎に再会、中間冊夫や森芳雄の薫陶を受ける。

◎63年「独立美術展」に初入選以来、中山賞・田近憲三賞・小島賞・独立賞など受賞して、会員に推挙される。
60年代は人の気配や風景を、混沌とした筆致で描く。70年代は荒涼としたアトリエや、廃棄された椅子・テーブルを経て、画家の方向を決定する「裸婦」の連作が始まる。

◎「一隅」と題する裸婦は、現実の厳しさを反映して緊張感が漂い、人間の存在を凝視する。色彩は赤から80年代は青、挑発的なピンクを経て90年代から清浄感のある白い裸婦に移行して現在に至る。

◎人間の実在感を追求する裸婦など作品は、時に苦悩や安らぎに満ちて多くの人々の感動を呼ぶ。砂丘・賀路港・大山の風景や、洒脱な墨彩画も多い。鳥取市文化賞・県文化功労賞など受賞。鳥取市青葉町。(角秋)

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