第23回「演劇 –映像と見せ物の時代の中で–」中島諒人 氏
演劇は“対話”だ コミュニケーションで創り出す“ブリコラージュ”だ。
[演出家]中島 諒人 氏
平成27年7月24日午後6時30分からサルーテで、第23回『楽しく真剣!「サルーテ文化講座」』が開催されました。司会の角秋勝治氏の講師紹介を経て、演出家・中島諒人(なかしままこと)氏の講演がスタート。出足は、人と時間軸・水平軸の話から、講演とゲームと朗読を織り交ぜながら、多くの聴講者の前で、熱く・にこやかに演劇の可能性・必要性についてお話をされました。参加者は60名。
講師の中島 諒人 氏
劇場とは何なのか?
人間は、時間軸の中で過去や未来と繋がっている。水平軸では、グローカル、地域とそして同時に世界と繋がっている。
人間として、より成長をして行くには、過去を見なければならない。また、過去を振り返りつつ未来を考え、自分の足元を見つつ、世界の事を考えなければならない。いろんなものと繋がって生きて行きたいと願っている。
図書館は過去の営みの蓄積があり、専門家が居られますが、会館・ホールには専門技術スタッフは居られますが、残念ながら舞台芸術家はいません。
我々は演劇の歴史と繋がりながら、ソフトの部分での専門家として作品を提供して行く。演劇の可能性を熟知しながら、難題山積の社会の中でいろいろな形で貢献出来る。必ず演劇は役に立つと思っています。
演劇とは、人と人との遣り取りで、全員がその時間を一緒になって創り、同じ空間を共有する楽しさがあります。
エンジニアリングという言葉があります。エンジニアリングは、誰かが作った設計図に沿って物を作って行きます。対比する言葉として「ブリコラージュ」という言葉があります。ブリコラージュとは、その場で手に入るものを寄せ集め、試行錯誤しながら最終的に新しい物を作る(器用仕事)。演劇の仕事はブリコラージュが多分にあります。勿論、脚本があり、演出家が創る訳ですが、脚本通り、演出家の言うがままに創るのかというと、決してそうではありません。互いのコミュニケーションの中で創られて発展して行くプロセスが正に、ブリコラージュです。
共同作業としての演劇で、互いがコミュニケーションをする。身体全体で表現する。身体全体で人に伝える。だから、コミュニケーションが不足している現代社会では、演劇というものが、必要とされている。
「班女」(はんじょ)は三島由紀夫が昭和31年、能の原作を元に描き下ろした戯曲著書「近代能楽集」の中に掲載されている戯曲の一つです。2006年9月から「鳥の劇場」を始めましたが、同年12月に上演した作品で、“演劇は対話だ”と言う事で選択しました。
(中略)
今、全国の大学で理工系の学部を大事にして、人文系の学部を縮小して行こうという流れがあります。
人間の心の中を描き、解きほぐす、人間の多様性を教えるのが人文科学であり、芸術は人文科学の先に存在するものだと考えています。
人間が豊かに生きることを考える。人とのコミュニケーション。楽しさを教えてくれ、より良い社会を創っていくには、人文科学が重要であることを再認識して頂きたい。
最後に少しPRを、私達は演劇をやっていて、人間に出来ることは限られているけど、人間も舞台も限られたものを通じて想像を膨らませる事が出来る。私達が演劇に関わっているのは、そういう人間の振幅、幅、深さを感じて貰える場にしたいというのが活動の趣旨であり、鳥の劇場の狙いです。
■「班女」はんじょ
画家志望の40歳の女、本田実子は不安であった。家に住まわせている美女・花子のことが新聞記事になってしまったからだ。狂女・花子が扇を手に、来る日も来る日も駅で吉雄を待っている。その記事がいずれ吉雄の目にとまり、二人が再会してしまうのではないかと実子は恐れた。世間から花子を遠ざけるため、実子は花子を旅行に誘うが、花子は聞く耳をもたない。新聞記事をみた吉雄が扇をもって実子の家を訪れた。実子は必死に吉雄を家に入れまいと妨害する。吉雄を見た狂女・花子はあなたは吉雄さんのお顔ではないと言う。吉雄は失意のうちに去って行く。そして再び、花子の待つ人生、実子の何も待たない人生が続く。
今日皆さんに読んで頂くのは三島由紀夫の戯曲「班女」です。演劇は“対話”だということで選択をしました。
2009年9月から鳥の劇場を始めましたが、「班女」は同年12月に鳥の劇場で上演した作品でもあります。
共同作業の演劇は互いのコミュニケーションが昇華して作品なります。現代はコミュニケーション不足です。
私が演劇に関わっているのは、人間の幅・深さを感じて貰える場にしたいとの思いが私を駆り立てるからです。
人が豊かに生きる、人間の多様性等を考えるのが人文科学です。芸術は人文科学の先に存在するものです。
■中島 諒人 氏のプロフィール
・1966年
・1990年
・2006年
・2003年
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鳥取市生まれ。
東大法学部卒。在学中から演劇活動を始める30代半ばまで東京・下北沢や渋谷の小劇場を中心に『現代社会のひずみ』を追求。
鳥取市鹿野町に廃校を劇場に変え、劇団の為の劇場『鳥の劇場』をスタート。
利賀演出家コンクール最優秀演出家賞。07年、鳥取市文化賞。10年、芸術選奨文部科学大臣賞。11年、鳥の劇場として、国際文流基金地球市民賞。
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過去の文化講座
平成27年度
- 第21回「ふるさとを歌う」 西岡恵子 氏
- 第22回「15歳からの陶芸」 河本賢治 氏
- 第23回「演劇 –映像と見せ物の時代の中で–」中島諒人 氏
- 第24回「抽象と想い」 藤原晴彦 氏
- 第25回「自然によりそって」 森田しのぶ 氏
平成26年度
平成25年度
- 第11回「ふるさとの環境運動」土井淑平 氏
- 第12回「人形に思いをこめて」安倍朱美 氏
- 第13回「『源氏物語』の魅力」中永廣樹 氏
- 第14回「自然はおもしろい」清末忠人 氏
- 第15回「童心を描く」 佐藤真菜 氏