文化講座

第12回「人形に思いをこめて」安倍朱美 氏

2013-05-17

物が無くても心が豊かだった昭和の時代に、未来のヒントが!

[人形作家]安倍朱美 氏

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 平成25年5月17日午後6時30分からサルーテで第12回『楽しく真剣!「サルーテ文化講座」』が開催されました。 司会の角秋勝治氏の講師紹介を経て人形作家・安倍朱美氏の講演がスタート。安倍さんは牛乳瓶に割り箸を刺しただけの人形に触発され、人形作りに没頭。2010年から「きずな、昭和の家族」と題して全国巡回展を開催中で、東奔西走の中、「人を思いやる大切さ」、「人間のあり方」などを語り、満員の聴衆は興味津々。講座は終始和やかな雰囲気に溢れるものでした。参加人員は約90人。

 私の人形作りのきっかけになったのは、わらべ館で、牛乳瓶に割り箸を刺しただけの人形が掲載された一冊の本を見た時でした。その後、人間関係に悩むことがあり、一人籠もって人形作りに没頭していました。人形に向き合っていると、どんなことでも昇華されるような気になり、葛藤があるから今がある。人の非難ばかりしないで、あきらめず自分を高める努力をする。それが人形に向き合う姿勢になりました。 
 作り始めて5年くらいで人形を作っていくうえでの精神的な基盤ができていきました。やがて、新聞やテレビで取り上げられ、人形教室もできて、私も少々有頂天になり、依頼をすべて受けていました。ある時NHKの朝の全国放送に取り上げられるという話が来たとき、自分の作品がそんな力量に達していないことにハッと気づきました。それからは出過ぎず等身大で生きてゆこうと心に決めました。
 5年目に鳥取物産館で初めての個展をした時、来場者の方から、「立体作品だからどの角度から見ても様になるよう骨格や筋肉の流れの基本的なことが頭に入ってない」と言われ、依頼されたものを自分が納得してから作ることの大切さなどに気付かされました。

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講師の安倍朱美 氏

「母ちゃん読んで」という作品が、京都宝鏡寺の公募展1000点の中から大賞に選ばれ、2010年『国民読書年』のポスターに採用され、全国の学校・図書館・書店に配布されました。
 さらに、昭和を舞台にして3年で100体の人形を作ってほしい、という依頼が届きました。自分が人形を通して伝えたかったことと、昭和という時代が持つイメージが重なるのではないか、又、昭和を単なるノスタルジーとして、捉えるのではなく未来につながる大切なものを表現できたらと思い、引き受けることにしました。人形を制作しながら自分と向き合い、自分の内面を探る営みの日々が続いています。現代社会の問題点は、物が無くても心が豊かだった昭和の時代に解決のヒントがあるとも感じました。
 『昭和の家族』と題したこの全国巡業展は3年が過ぎ、今まで24か所で、開催され今なお各地で続いています。
 今後も、人形作りを通して、「人を思いやる大切さ」や「人間のあり方」、「生き方」を自分に問い続け、人として成長していきたいと思っています。

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北原照久氏と不思議な出会い、「夢の実現・ツキの十カ条」を聞き、実践している。

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現代社会の問題点は、心が豊かだった昭和の時代に解決のヒントがあると思います。


■安倍朱美 氏のプロフィール

◎1950(昭和25)年、西伯都西伯町(現南部町)生まれ。81年、人形作家になることを思い立ち、模索しながら独自の技法で粘土人形の創作を始める。

◎1995-96年、日本伝統工芸展中国支部展に入選。98年、鳥取市用瀬町の全国創作和紙人形コンクールで流しびな大賞受賞。99年-2006年、新匠工芸展入選。2002年、第17回国民文化祭で鳥取県実行委員会会長賞。米子市美術館で個展。

◎2007年、京都の宝鏡寺門跡50周年人形公募展で大賞受賞、人形作家として一躍注目される。翌年、米子市文化奨励賞。10年から「きずな 昭和の家族」と題して全国巡回展を開催中。
12年、NHK「ラジオ深夜便」に出演。

◎一貫したテーマは「昭和」。匂うばかりの母子愛、ちゃぶ台を囲む家族、縁側で交流する隣人、遊び興じる子どもたちの姿を通して、幸せの原点を問う。現在は壷井栄原作・木下恵介監督の映画で知られる「二十四の瞳」を制作中。

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