第 8回「文学うら表」 須崎俊雄 氏
「みんな違ってそれでいい」グローバル化のファシズム懸念 [作家]須崎俊雄 氏
冒頭に「原発事故などで、日本はめちゃくちゃ」と慨歎。途中、須崎氏の作品『久松山物語』の一節を朗読ひまわりの会の方に読み上げて頂きました。講座は終始あたたかな人間味溢れるものでした。
第8回「サルーテ文化講座」は7月20日、作家・須崎俊雄さんを迎え『文学うら表』と題して開きました。
須崎さんは「反グローバル家」を表明。「芸術もスポーツも国境なしと言うが、言葉も風俗も伝統芸能も異なる。詩人の金子みすずが詠う通り『みんな違ってそれでいい』。なぜなら同一化は、ファシズムを導くからだ」と明言しました。
須崎さんは冒頭「原発事故などで、日本はめちゃくちゃと」慨歎。
1933年(昭和8)鳥取市生まれで、自分を「小心者で、照れ屋で、話し下手」と紹介します。
しかし鳥大在学中から文学活動を始め、日本海テレビのディレクターを勤めなから、小説・評論・劇作を書いていますから、マイナー人間が持つ「書く」ことへの自負心が伺えます。
「ワープロも使えず、すべて原稿は手書き」と言い、一方では「文学とは絵空事」とも断言。どんなドキュメンタリーにも演出があり、作者の気持ちが入っている以上、完全な客観性はあり得ず、ならば「フィクションで、つまり虚構で真実を書く」と、作家としての信条を吐露しました。
文字には、随分こだわりがあるようです。「馬」「魚」などの漢字を手書きで進めると、ものの形が見えて実感が湧く。話すのが苦手だから「言葉を文字に移すのが好き」。もう一つ文章の魅力は「句読点」が打てること。話し言葉には句読点も漢字もなく、私たちは話し言葉をひらがなで聴きながら、瞬間的に漢字へ変換し、自分なりに心の中で句読点を打ち、別行を作りながら、言葉を文章化しているわけです。
同人誌『断層』に連載した『久松山物語』の一節を、「朗読ひまわりの会」の川島三恵子さん・河上奈津代さんが読み上げました。物語は郷土を題材にした架空都市の出来事で、久松山は「ひさまつやま」と読みます。登場人物は作曲家・岡野貞一、大国主命、ヤカミ姫、因幡の白兎など、時空間を超越した「須崎版の神話」です。
最後に須崎さんは「不快な言葉」を取上げました。それは近年、アナウンサーや政治家が乱用する「――と思います」という言葉。思っているから言うのであって、それをいちいち断る必要はない。思うだけでなく、言葉には責任を持ち、実行すべきと主張しました。
次回は9月14日、陶芸家の前田昭博さんが講師です。
■須崎俊雄 氏のプロフィール
◎1933(昭和8)年、鳥取市丸山生まれ。鳥取大学学芸学部(現地域学部)卒。在学中に文芸部誌『砂丘街』『多島海』、同人誌『裏日本文学』『論』を主宰。1968(昭和43)年に同人誌『断層』を創刊、現在に至る。
◎1958(昭和33)年から35年間、日本海テレビ放送(株)に勤務。ディレクターとして、地方文化への考察を養う。その間、市民劇『渇殺・鳥取城』『鳥取有情』を上演。
◎著書は小説『うしろの正面』『ヤカモチ、雪に歌う』、評論『鳥取の市民運動』、劇作『鳥取城主吉川経家』、評伝『格子戸を破った男-児嶋幸吉のベンチャー精神-』、絵本『ぴょんたとけろっこ』など。
◎鳥取市文化賞、山陰中央新報社地域開発賞、鳥取県文化功労賞を受賞。鳥取文芸協会会長、鳥取市文化団体協議会会長。(角秋)
過去の文化講座
平成27年度
- 第21回「ふるさとを歌う」 西岡恵子 氏
- 第22回「15歳からの陶芸」 河本賢治 氏
- 第23回「演劇 –映像と見せ物の時代の中で–」中島諒人 氏
- 第24回「抽象と想い」 藤原晴彦 氏
- 第25回「自然によりそって」 森田しのぶ 氏
平成26年度
平成25年度
- 第11回「ふるさとの環境運動」土井淑平 氏
- 第12回「人形に思いをこめて」安倍朱美 氏
- 第13回「『源氏物語』の魅力」中永廣樹 氏
- 第14回「自然はおもしろい」清末忠人 氏
- 第15回「童心を描く」 佐藤真菜 氏